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2006年6月 7日 (水)

ひらめきの神秘

 今日のエントリも前回に続き、書評めいたものである。連続して書評を書くと手抜きと思われそうだが、後々のエントリのための基点としたいので、あえて書く。はっきりいって、今日のエントリは曖昧で分かりづらいものであるが、そのうちの幾人かでも私に共感を示してくれれば、と思う。

 前エントリで紹介した「下流社会」よりも先に読了していたものなのだが、以前に茂木健一郎氏の「ひらめき脳」を読んだ。新潮新書の字詰めの甘さに少し憤慨しながらであったが、平易に書かれた文章は非常に読みやすかった。一つだけ注意すべきは、この文章が全て茂木氏の手によるものではないことである。巻末に書いてあるが、茂木氏の考えを聞いた第三者が文章にまとめ、それを本人が手直しするという形になっている。そのために本書では茂木氏独特の文体というものは見られないが、他の茂木氏による著作の内容を平易にまとめた入門書の役割を果たしていると思う。この一冊だけでも十分に感得できるものがあるのなら、間違いなく良書と言うべきだろう。

 さて、内容に触れていきたい。本書は題名のごとく「ひらめき」について色々な面からアプローチを仕掛けている。記憶や忘却、無意識などの事柄と「ひらめき」がどう結び付いているのかを、現在判明している研究成果から考え出していこうとする構成だ。なかなか目から鱗の内容も多いのだが、詳しくは本書の実物を書店で立ち読みしてもらうなりするとして、茂木氏の書き方あるいは考え方のどこが素晴らしいのかを考えてみた。氏はどうして「ひらめき」という結論のない問題について、読者に納得させられるように書けるのか。私が思ったのは、茂木氏の書き方は問題そのものに光をあてて明らかにさせようとするものではないけれども、問題の周辺に光をあてて問題自体の輪郭を浮き上がらせるようなものであることだ。「ひらめき」という、それ自体を語り得ない問題に対しては、これが最も有効な手法であると思う。示すのは問題の輪郭だけであるので、一番重要なポイントは読者の感性に委ねられたまま。つまり、こういう科学の本にありがちな「語りすぎる」という弊害を無くする働きをしているのである。しかも、さらに付け加えさせてもらうと、問題(あるいはその周辺)に対する光の当て方に、著者の好奇心が上手く織り交ぜられていて、読んでいる人間としても飽きない。これらのことが、知識層から一般まで広く支持を受ける茂木氏の秘密なのだと私には思えた。

 ひらめきとは何か。茂木氏の文章はその輪郭を確かに上手く伝えていたけれども、私がその輪郭をよく理解できたのは、私にひらめきの経験があったからという理由が最も大きいと考えている。時折、開かなかった扉がひとりでにゆっくりと開いてゆく感覚。一度開きかけた扉はそのまま手でこじ開けることもできるし、じっと待つだけで自然に開いていってくれる。そうした感覚は日常の何気ない時に現れることもあるが、一番多いのは夜半の静けさの中に身を置く時だ。人間的な生活音が消え失せ、一種の孤独めいた空気の中にいる時。孤独に迫られて考えるでもなく、自ら肯定的に孤独の中へ足を踏み出す時。そんなときにこそ、ひらめきというものは現れるのだ。私がひらめきと思うものの中には、新たなことの発見だけではなく、今までの知識が異様な情熱と共に脳裏に焼き付けられることもある。再認識というよりは追体験に近い感覚。そうしたことを時々感じ取ることで、私は日々成長しているのだと思っている。ただ、重要なのは求めるのではなく静かに待つこと。ひらめく環境を整えることである程度は促されるだろうが、やはり時間以外には本質的に何も解決してくれない。それは即ち、茂木氏が文章中で述べていた「脳は絶えず働いている」という言葉と見事に一致してくるのである。改めて茂木氏の文章に秘められた力を感じ取らされたものであった。

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コメント

 ひらめきの根拠を知るには、その前に人の心とは何かについて知る必要があります。
 ヒトの心の存在と働きを否定するのが科学的だという迷信を信じている人たちには、しかし、これは出来ません。

 この話の結論は、次のブログに詳しく説明されています。正確にはその途中ですが・・・。
 いわゆる神の存在証明がもたらす意味について
 天然自然の存在の創造主である神の存在証明をして、神が造ったこの世界の成り立ちと仕組みについて説明し、人類史のリセットと再構築を試みる。
 http://blog.goo.ne.jp/i-will-get-you/
      一般法則論者
 

投稿: 一般法則論 | 2008年2月26日 (火) 23時21分

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