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2006年3月28日 (火)

品格ない本が売れる背景

 昨日は「国家の品格」について、結構散々な書評を書かせてもらった。私はあのような本が嫌いなのであるが、どういうわけか世間ではあの本を評価する人は結構多い。それはなぜだろうか。今日はその疑問から出発してみたいと思う。

 まず、あの本を評価する人が言うのは、分かりやすかったということである。確かに最近のベストセラーになる本は、分かりやすい。何が分かりやすいかというと、読みやすく工夫されている構成もさることながら、著者の主張が簡明であるという点が大きいと思う。「国家の品格」もそうであったが、少し毒舌なくらいに著者が主張するというスタンス(こういうところが品格に欠けると思うのだが)が受けているようである。ただ、そうした簡明さを重視する場合は、当然のことながら簡明さゆえの弊害も考えなくてはならない。例えば、昨日私が槍玉に挙げた論理性を否定している記述にしても、あの本をよく読み込めば著者が論理の必要性も認めていることが分かる。だから、私が行ったような批判は、あの本を精読した人に言わせれば、間違っているのである。しかし、あの本は簡明さを重視するあまり、論理の否定に力を注ぎすぎていて、論理の必要性についてはほとんど語っていない。それは多くの人に表面的な理解から来る誤解を与えかねないものであり、素人受けする本では尚更のことである。私はそうした点を危惧しているのだ。だから、私が昨日紹介した書評で、

ちなみに僕が藤原正彦だったら、「自由、平等、民主主義は形だけ真似してもダメだ。これらを成り立たせるには情緒や品格が必要である。そのためには日本は武士道精神を復活させるべきだ」というように書いたでしょう。
と書かれているように、”情緒や品格が必要となるのは、合理主義という基盤だけでは不完全だから”という部分を強調すべきだったように感じる。些細な但し書きに過ぎないが、それの有無だけで読者の印象も大きく違ってくるのである。そうした細やかな気配りこそ、プロのオーサーに求められるものではないだろうか。

 また、最近のベストセラーの多くは、主張を簡明に表現するために本の構成が練られている部分も見逃してはいけない。それらに共通しているのは、構成が”主張先行型”であるということである。主張先行型の本の構成は「著者はこういう主張である」という書き出しで始まり、「その主張がどう良いか」という記述が続いていく。しかし、不思議なことに、こうした本の多くには「なぜ著者はその主張が良いと判断するのか」という前提部分が一切欠落しているのである。ここで気をつけて欲しいのは、「主張がどう良いか」と「なぜ主張が良いのか」は全く別の問題であるということだ。前者は主張の「良い部分」にしか着目していないのに対し、後者は主張の「良い部分」と「悪い部分」の双方に着目している。無論、ものごとを考える場合に求められる姿勢は後者である。前者は極めて盲目な姿勢だと言わざるを得ない。

 しかし、それにもかかわらず、現実は前者の姿勢をとる本がよく売れるのである。私はこの現実に対して、一つの強い危惧を抱く。それは、民衆の間に主張を無批判に摂取する風潮が広がっていることである(以前のエントリでもこの可能性を指摘した)。主張が正しいかどうかということを吟味しなければ、最近のベストセラーほど愉快な本はない。著者は自らの主張が正しいことを暗黙の前提にして主張の良さを語るからである。このとき、著者の主張が正しいか否かの判断は全て読者の側に委ねられていることを注意しなくてはならない。さもなくば、読者は読後の爽快感の代償として、自主的な思考を奪われてしまうだろう。悪意に満ちた宣伝に誘導されないためにも、善悪兼ね合わせた判断は必須である。だが、現在のベストセラーの傾向を見ると、社会が誤った方向に足を踏み出しているように思われて仕方がない。これがただの危惧であるならいいのだが。

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コメント

「国家の品格」は読みました。

内容にはおおむね共感できるけどこんな厚さの
本で語れることはわずかなことだけだし
なぜこれだけ品格のない大人たちばかりになったのかは
議論の分かれるところでしょうね。

「貧乏人が心まで貧相になった」

というのが私の実感かな。昔は貧富の差と
品性の差はそんなに相関性はなかった。今は
金持ちの方が気持ちも穏やかでちゃんとした人が多い。

投稿: 江草乗 | 2006年3月29日 (水) 16時19分

コメントありがとうございます。
確かに貧乏人が卑屈になっているように感じますね。
拝金主義になってしまったことも理由の一つなんでしょうが
それを煽っているのはやはりメディアでしょうか。
メディアにはもっと労働の美徳をアピールしてもらいませんといけませんね(笑

投稿: 熊助 | 2006年3月29日 (水) 17時14分

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